さうれぽのインタビュー企画、第6弾のお相手はドールハウス作家のMOCO’S ROOMさんです。
後編では作品集『火の精のリストランテ』や鹿児島で創作をすることに関してお話いただきました。

作品集『火の精のリストランテ』に関して
――MOCO’S ROOMさん(以下、モコさん)は2021年の12月に初期作品集『火の精のリストランテ』を刊行いたしました。改めて、作品集の刊行ありがとうございます!

ありがとうございます!今回、通常の作品紹介だけではなく、作品の魅力を伝えられる物語になったかなと思っています。
――物語の構成だけではなくて、冊子の作りとしても作り込まれているなぁという印象を受けました。私も個人冊子を作った経験があるので分かるのですが、表紙のページがあったりと時間や費用も結構掛かったんだろうなと……
そうですね、時間的にも費用的にもそれなりに掛かりました。
私は制作費を家計から出さないようにしています。1作品ごとにいくらかかったのかを計算していて、その作品をいくつ売ることが出来れば、次の作品の製作費にまわせるかを考えます。しかし、ドールハウスやジオラマなどの大きな作品は、いつか個展を開くために保管しておきたい。でも、それだけでは売上にならない。そう思った時に、作品集(フォトブック)を出せば売上にもつながり、お客様にも私の作品について伝わるのではないかと思い、今回の作品集刊行につながりました。
でも、やはりアートにお金を出すということは、お客様にとってハードルが高いことのかなと感じました。
たくさんの方に見ていただきたいので、赤字覚悟で安価な価格で販売しようかなと考えたこともありました。しかし、これまで様々な展示販売会を見てきて、材料費だけではなく、製作費まで見込んで価格をつけている作家様を拝見していると、作家様自身が自分の力を信じているのだという気持ちが私にも伝わり、本当に心に響けば自然と購入しようという気持ちになります。その点でも、今回、材料費だけではなく製作費も見込んで設定した価格で作品集を刊行したことは私にとっても良かったと思います。製作する時の緊張感がプラスに働いてくれます。例えばこの作品集の価格を材料費の500円で設定した場合「どうせ500円だし」と思って手を抜いてたと思うんですよ。しかし「製作費」をきちんとプラスすることで、「絶対売れる!」と信じることができるまで、何度もスタッフと打ち合わせてやり直したりもしていて。自分に良い緊張が生まれるんですね。
――今回、作品集『火の精のリストランテ』を拝読させていただく中で、個人冊子の枠を超えて多くの方が関わっているんだな、という印象を受けました。撮影や衣装などもそれぞれ担当の方がいらして。

そうですね。やはり多くの人が関わると、それぞれの価値観が違うため色々なことが起こります。私にはそれが勉強になります。例えば、今回の場合はリハーサルが上手くいかなかったため、スタッフと私でどうすれば成功するのかそれぞれに知恵を出し合いました。
――撮影のyukaさんと撮影補助と衣装担当のをーきさんですね。
そうですね。今回はこのお二人のアイディアにとても助けられました。あと、撮影で使用したドールは、東京のDOLLCEさんで買ったドールだったため、販売するにあたり守らなければならないルール(著作権のことなど)をDOLLCEさんと話し合って確認しました。奥付ページに、使用したドールが「DOLLCE ミニスウィーツドール」であることを示せば販売が可能です。とお返事を頂きました。何かを「販売する」ためには、高い壁が立ちはだかることもありますが、諦めずにどうしたら実現できるかを考え、確認していきました。

その苦労が報われて、売れた時は本当に嬉しかったです。今回、私と全く面識のないお客様が通販サイトで買ってくださり、その方のレビューが大変嬉しく、私が今回力を入れた箇所もよく伝わっていることがわかりました。
――それはめちゃくちゃ嬉しいですよね。その方は、アートマーケットやモデラーズコンベンションで作品を見て来てくれた方なんでしょうか。
その方は県外の方のようです。もしかしたらSNSのフォロワーの方かなと。その中のおひとりかも。
――なるほど、SNSで知ってくれた方なんですね。ヤフオクやYoutubeを見て作品の良さを知ってもらったのかも。
そうかもしれないです。今回は本当に勉強になることが多かったです。
火の精のリストランテ――その制作過程
――作品集を買って実際に手元に届くまでは、モコさんの制作されたミニチュアやドールハウスの写真集のようなイメージがあったんですね。けれど実際にページをめくってみると、等身大のご自身が小さくなってドールハウスで料理や日常生活を送っていく物語になっていて。また違った角度でミニチュアや作品の魅力が伝わってくるなと感じました。色んな工夫の上に作られているんだなと。
物語の大枠は、実はyukaさんのアイディアなんです。「自分が小さくなってドールハウスの中にはいってみたい」と。パッと浮かんだのは、小道具が必要だなということと、小さくなるという物語の性質上、自分も何かしなければいけないなと。大変そうだと思った反面、すごく楽しそうだなと思いました。ミニチュアとは別に、「DRINK ME」の小瓶とか作品に登場する帽子も全部作ったりして。主人公が読んでいる料理の本の表紙も、著作権に引っかかるから自分で作りました。だから、ミニチュアとは全然関係のない裁縫やデザイン等の作業も行いました。

今思い返しても、yukaさんのアイデアが自分にとっては目から鱗で。そういう見せ方は、自分では考えもしなかったので。作品集を購入して下さった方も、ストーリーが面白かったと言ってくださいました。
――作品だけではなく、こだわりを持って作られたストーリーを褒めてもらえるとこだわりが伝わっている気がしますね。
こういうアイディアはひとりで作っていても気づかないんですよね。ひとりで作ると、自分の作品が可愛いから作品ばかりを撮ってしまいがち。しかし、他の人から見たら作品ばかりを撮るのはそんなに面白いことではないのかもしれないと。それだったらストーリーにした方が面白いよねって。
yukaさんのアイディアをもとに私がストーリーの絵コンテを作り、それを二人に共有して、絵コンテに合わせた写真の撮り方やメイクの仕方を考えてもらいました。ストーリーにするのは普通に作品集を作るよりも手間がかかるし難しかったです。
――発想はyukaさんが考えて、文章の方はモコさんが考えられたんですか。
ミニストーリーは、熊本県で詩人として活躍されている、けいせいさんにお願いしました。全ての写真が確定した後に、その写真を見て頂き、けいせいさんが感じるがままに書いていただきました。その理由は、写真だけでどの程度こちらのストーリーが伝わるのかを確認したかったこと、もう一つは私の言葉ではなく、詩人であるけいせいさんの感性で書いていただきたかった、ということからです。
“前編”で少しお話した「詩を書く知り合いが、音楽を聴きながらイメージを膨らませて書く」というのはけいせいさんのことなのです。詩人としてとても尊敬していたので今回のご依頼となりました。

※現代詩・クリエイティブライティングの投稿・批評プラットフォーム“B-REVIEW” けいせいさんは「stereotype2085」名義で詩を投稿されており、第二期運営としてもご活躍していました。
幸いにも、こちらのイメージ通りにけいせいさんに伝わり、かつ、私には表現できない言葉でストーリーが綴られていたのでとても嬉しかったです。
撮影当日は、ギャラリーの持ち時間も決まっているので大変なことも多く、「どういう風景で撮るのか」を明確にしておく必要がありました。作った絵コンテを見ながら撮影方法を模索しましたが、思っているようには進まず、リハーサルでは時間が全然足りませんでした。ドラマと一緒で、ストーリーの順番で撮ると、要領が悪くなり時間ばかりが過ぎることがあるため、最初に最後のシーンから撮るなどして時間短縮を図りました。Gallery POLANCCAさんで、朝の9時から夕方の6時までかかりましたが、夜の風景が撮れたのは良かったですね。
――確かに夜の写真とかは一日通さないと撮れないですもんね。人や時間をかけて作った作品集だなとは思っていたんですけど、本当に個人よりもチームで作った作品なんですね。
そうですね、本当チームで作って良かったです。
影響を受けたミニチュア作家
――ちなみに、ミニチュアの作品集としては物語形式で本を作るのはかなり珍しいんじゃないですか?
どうでしょう。前編でもご紹介した田中智さんの冊子はこんな感じですね。作品の紹介がメインで……
(田中智さんの作品集をぱらぱらと見せていただく)
(ちゃんびい)さっき思い出したんですけど、私が前にいた会社にミニチュアを作っている方がいて、その人も田中さんに憧れてるって言ってました。
えっ、その方、どなたですか(笑)
(ちゃんびい)本名とは別の名義で活動されているんですけど、ミニチュアを作ってメルカリで販売したりしているみたいですね。その人が田中智さんの名前を教えてくださいました。
やっぱり田中さんに憧れる人は多いと思います。ミニチュアの先駆者なので。
私がミニチュアを作り始めた頃、田中さんはトラック運転手のお仕事と並行してミニチュア製作をされていらっしゃいましたが、今はミニチュア作家として独立されて活動されています。
(ちゃんびい)意外な経歴ですね。
――アホっぽい感想ですけど本物みたいなミニチュアですね。じゃあ、一般的な冊子としては作品を撮ってまとめていくようなイメージなんですね。
作品だけを撮る、というのは田中智さんだからかもしれません。(これは「田中智のミニチュアワーク」の感想)カリスマ的な存在で、作品自体がものすごく高い評価をされている作家様なので。先ほどちゃんびいさんの話にもありましたけど、私のようにミニチュアを作っている人はたくさんいるんですよ。都市部に行ったら、今の私の力ではあっという間に埋もれちゃう。
だから私は、鹿児島に実際にあるお店や風景を作っていこう、そういうことを強みにしようと思っています。その最初の取り組みが、2021年5月の鹿児島モデラーズコンベンションに出展した仙厳園さんのジオラマですね。



ドールハウスは想像で作ったものなんですけど、実際にあるものを作成するのはとても難しいです。今(2021年12月現在)製作しているのが、玉里団地にある「アトリエ ニコ (atelier niko)」さんという人気のケーキ屋さんです。今作っているのがこれなんですけど……

(ちゃんびい&エヌ)すごいですね。 ※“前編”でも紹介した「アトリエニコ」さんのミニチュアを見て驚くちゃんびいとエヌ。しばらくミニチュアに夢中です。

アトリエ ニコさんにはとてもおしゃれなオブジェがたくさん飾られています。どうやったら小さく作れるかとても悩みますが、基本的には模型を作る技術を使えば、ほとんどのものは作れるのではないかと。
(ちゃんびい)いや、これすごいなあ。
――ちなみに、制作時間はどれくらいなんですか。
半年くらいですね。まだまだ終わりは見えません。アトリエ ニコさんはパンも作っていらっしゃるので、今はパンを乗せるトレイのミニチュアを作っています。100円ショップにある、ステンレスザルを素材にしています。


今はクリスマスの時期(※取材は12月に行いました)なのでケーキが特に美しいです。この時期に集中して作らなければと思っています。
(ちゃんびい)こういったミニチュアは、1時間でどの程度作れるものなんですか。
ミニチュア製作には粘土等を乾燥させておく時間が必要です。ミニチュアが可愛い理由の一つに、同じものが同じ大きさで作られている、ということがありますので、最初はエポキシパテで原型を作ります。原型を作って硬化するのに1日かかります。原型さえ作れば、ブルーミックス等で型どりをし、完成した型に粘土をはめてどんどん作ります。

あとは、籠を編むのが苦手でした。理想のサイズで作れず、成功させるのに時間がかかったりとか。
アトリエ ニコさんはケーキ屋さんですが、特にチョコレートが美味しいことで有名です。私の想像だけだったら、チョコレートコーナーにはチョコレートしか並べないけど、「アトリエ ニコ」さんでは試食用のチョコレートが入った瓶を置いていらっしゃいます、瓶は作った経験がなかったので勉強しました。焼菓子のラッピングもスタッフの方が手作りしていると聞いたので、今回、はじめてトレーシングペーパーを使って花を作りました。実在しているお店を作るのは難しいですが、勉強になります。
――お店側の工夫がよく分かるというか。
そうですね。オーナーさんやスタッフさんの素晴らしいセンスを身をもって体験できます。
(ちゃんびい)このお店を選んだ理由があったんですか。
3年前にアトリエニコさんがオープンして、買ってみたらとても美味しくて、そのうち遠方からもどんどんお客さんが来店されるようになりました。私自身も度々通うようになったんですよね。
仙厳園さんを作り終わった後は燃え尽きていて、次は何を作ろうかずっと悩んでいたんですけど……もしアトリエニコさんを作らせてもらえたらまた頑張れるんじゃないかなと思って。まずは交渉ですよね。一番大変なのが。作っても良いのか、作ったものを展示会に出してもいいのか。オーナーさんやスタッフさんに直接お願いをしました。
――勇気のいることですよね。交渉するというのは。
勇気がいりましたね。あと、作ると決めたお菓子やケーキに関しては写真ではなく必ず購入するようにしています。食べてみないとイメージが湧きません。リアルなお店を作るというのは、自分の想像でお店を作るのとは違って、取材もしないといけないし大変ですが、出来上がった時はすとても嬉しいです。作業の経過をお店の方に直接見てもらったりもしていて。嬉しいことに今のところは喜んでいただいています。
――お店の方も嬉しいでしょうし、作っている側からしてもめちゃくちゃ嬉しいことですよね。
嬉しいですよね、喜んでもらえると。4月までには完成させて、5月初めの鹿児島モデラーズコンベンションに出したいと思っております。しかし今年度は、子供の中学校のPTAや町内会の役員になってしまって……
――忙しくなりますね(笑)
仕事を理由に役員を断ることは、基本的にタブーとされている(今はほとんどのお母様が仕事をしている)ため、時間をやりくりしながら、製作時間を作りました。
都市部で暮らしていたとして
――これまでのインタビューの中で、ミニチュアに対する姿勢や熱量をたくさんお伺いしました。出会ったのは偶然「テンパークにいたから」ということですが、仮に都市部で暮らしていも変わらずにジオラマやドールハウス制作に取り組むだろうというのは変わらないでしょうか。
都市部にいたら叩きのめされるかもしれないですけど、やはりレベルの高い作家様の作品を実際に見てみたいですよね。なので、都市部にいたら今よりもっと展示会に通ったり、参加するのかなって。実際に作品を見ることで自分も上達していく気がします。ひとりで作っていると、自分が今どのくらいの力を持っているのかわからなくなるので。
――他の人のジオラマやドールハウスを見て技法を発見したりもするんですか。
そうですね。すごく勉強になったのが、縮尺にこだわり過ぎるとリアルなものが出来ないということです。私も縮尺はある程度考えるんですけど、常に全体のバランスを見ることを心掛けています。単純に1/12で計算して製作してしまうと違和感を感じることがあります。人の目って不思議なんですよね。
(ちゃんびい)不思議ですね。縮尺通りにしないとおかしくなってしまうような気もしますけど。
ドールハウスはお客様が色んな角度から見るので、そのことを考えると遠近感等を考えなければいけないというか。やってみないと分からないことがたくさんありますね。
――奥が深いですね。ちなみに、ドールハウスを作る上でモコさんが大切にしているところはどういうところになるんですか。
そうですね、例えば今回のアトリエニコさんで言えば、オーナーさんが、その日作っているお菓子等について、どういう気持ちで作っているのかをInstagramで紹介して下さっているので、毎日をチェックすることですね。

――作り手の気持ちを考えた上でモコさんもミニチュアを作るという訳ですね。
オーナーさんやスタッフさんの熱意が伝わってくると、難しいものでも最後まで作ろうって思えるんです。ドールハウスは依頼されて作っているわけではないので、製作をやめたくなる時もある。でもやっぱり、オーナーさんやスタッフさんがどういう気持ちで作っているのか知ることで、製作のアイディアが閃いたり「頑張って作ろう」って思えるんですよね。
仙厳園さんに関しても何度も現場へ通うことを大切にしていました。いつの季節が一番美しいのかを最初に考えました。個人的には夏がいいなと思って。上から見た時に木が一番生い茂っていて夏にしか咲かない花も咲いたりしていて。桜島も綺麗だったんですね。

とにかく、作る前の1年間は、常に観察やスケッチをします。
――取材が大事ってことですね。
そうですね、直接作りたいものをきちんと現場で観察ことですね。あとは、その場所を好きになることです。自分が一番のファンにならないと、どうしても続かないんですよね。
――自分にとっても身に染みる話です。
難しいですけどね、1~2年間もモチベーションを保つのは。
――作り終わるまでは考え続けないといけないですもんね。
そうですね。今の作品は諦めて別のものを作りたいと思うこともあるんですけど、やっぱり今作っているものを作り終えてから次作を作ることは、これまでも心掛けています。当たり前のことですが、難しいことです。
鹿児島でミニチュアの展示会を
――鹿児島で活動している方で気になる方とかいらっしゃいますか。
以前は何人かのミニチュア作家さんと連絡をしていたんですけど、徐々に疎遠になってしまって。前編でもお話をしたように、いつかミニチュア展示会をしたいと考えておりますが、ギャラリーを借りるお金も安くはないし、何よりミニチュアなので会場を埋めるだけの作品が今は足りません。
ある作家の方が仰っていたんですけど、画家さんや写真家さん同士でグループ展示するケースが多いらしいんですね。私も、ミニチュア作家さんが何人かいれば展示が出来るんです。今の作品量では個展をするのは厳しいので。
2017年に、全国でも有名なドールハウス作家の方が山形屋6階で展示会をされていて、お客さんも多く入っていました。作品が多ければ多いほどミニチュアって見ごたえがあるんですよね。
ミニチュア自体が小さな作品なので広い空間を埋めるのは中々難しい。だから、同じようにミニチュアを作る人の間で交流があればそういった展示会もできるのではないかと考えています。
――このインタビューがひとつのきっかけとなって同じような作家の方にも届いてもらえたらいいなと思います。
そうですね、「実はミニチュア作ってます」と言ってもらえたらぜひともグループ展示会が出来ればと思います。
――このインタビューを見たミニチュア作家の皆さん、ご連絡お待ちしています!
鹿児島について思うこと
――さうれぽのインタビューで必ず質問していることなんですけど、モコさんは鹿児島についてどのようにお考えでしょうか。漠然とはしていますが、鹿児島について思うこと、鹿児島に住んでいて便利・不便なところなどがあったら教えてください。
私は鹿児島と宮崎にしか住んでいないんですけど、鹿児島は食べ物も美味しいですよね。都市部に行ったとき等に味の違いを感じました。あと、子ども時代は平野部に住んでいたんですけど、今は山の方に住んでいるのでちょっと坂が多いなと(笑)
――実際、山を切り開いて出来たような住宅街は多いですよね。私の実家も山の上にありました。
鹿児島については、特に不満はないです。ただ、20歳の時に卒業旅行でドイツに行った時に感じたのが、どこの風景を切り取っても情景が美しいこと。「洗濯物を干してはいけない」とかそういった決まりはあるみたいなんですけどね。みんな情景を大事にしているようで。電柱もないんですよね、地面に埋められているみたいで。

(まとめている記事がありましたのでリンクを貼っておきます)
――それは知りませんでした。ヨーロッパらしいですね。
鹿児島も武家屋敷跡などに行けば、かつての鹿児島らしい町並みもあるんですけど、それはあくまでも史跡として地域が守っているもの。鹿児島の方がご自分の家を建てる際、周りの景観を気にしているかといえばそうではなくて「自分はこういう家に住みたい」と思って家を建てていますよね。
ドイツに行ったときはみんなで一つの街を統一して作ろうという気持ちがあるなと思って。そこが鹿児島……というか日本との違いかなと思いましたね。
――私は仕事の関係で地方に行く機会も多いのですが、確かに古い街並みを残しつつ、そこに新しい外装のお店が並んでいたり、という光景はよく目にします。
でも、その分ドイツは不便なんですよね。中心街が古い街並みを保っていて新しいビル街は郊外にあったりして。駅から遠いんですよ。でも、ドイツの人たちは美しい街並みを優先にしている訳で。
何がいいたいのかと言うと、みんなでこれを守りましょう、やりましょうという気持ちと行動力は大きなパワーがあるということです。都市部では大きなドールハウス展が開催されたり、みんなで集まってイベントを開催しましょうという風習があります。鹿児島でもKTSさん主催のナマ・イキvoiceアートマーケットがあるように。ただ、アートイベントの数は少ない気もするので「みんなで一緒にアートを作っていく」というイベントがもっとあったらいいのに、とは思いますね。
先日、ART・PORTEの方々と話をしていたんですけど、鹿児島にもギャラリーがたくさんあります。昨年ashがありましたけど、ashのギャラリーバージョンがあってもいいのかなって。東京とかは、ギャラリー毎に作家さんの取り合いとかもあるらしいのですが、鹿児島ではそのようなことは少ないと聞いているので、ギャラリーを巡る企画が出来たらいいねと話をしていて。それこそ、実行委員会のようなものを作って。
そういう風に「みんなで何かをしよう」というのがもっとあれば、新しい出会いとかもあると思うんですよね。SNSがあるので、鹿児島にどういう作家様がいてどういう作品を作っているのか調べたりも出来るんですけど、「実物を見る」ということに勝るものはないと思います。今はコロナ禍でなかなか実現が難しい世の中になってしまいましたが。
――今回、私たちが見せてもらったミニチュアがまさにそうですね。写真では中々分からない凄みがあります。
そうなんですよね。実物を見るというのはすごく大事で。SNSでみるのでは伝わらない部分があるので実際に自分で足を運んで、そして足を運びやすいような企画が出来ればなと。

せっかくこんなにたくさんギャラリーがあるので、もっとみんなが行って楽しめるものがあればいいなって。アミュプラザ鹿児島さんで行われていたアートマも、今のコロナ禍の状況では開催が見送られています。コロナが終息したら、やりたい分野の作家さん同士がタッグを組んでイベントを作っていけたらと思いますね。
――モデラーズコンベンションで見た仙厳園のジオラマも実物を前にすると、ツイッターで見るより大きく感じました。
実際に見てみると、迫力が全く違いますよね
おわりに
――それでは、最後になりましたが、モコさんのこれからの目標や、ミニチュアを通して実現したいことがありましたら教えてください。
まずは、自分の技術を高めたいというのがあります。模型の技術もなかなか奥が深くて難しい。もうちょっと出来るようになれば、オリジナルのオブジェを作ってみたいです。プラ板を溶かしたり曲げたりとかして。実在するものを真似して作ることは出来るんですけど、抽象的なオブジェとかは作った経験がないので。
それを作る為には自分はまだまだ技術も想像力も足りていなくて。だから先ほどもありましたけど詩や絵、写真を撮る方々は、本当にすごいなと感じます。色々なご経験をもとに、ご自分の中で想像を膨らませていらっしゃるのでしょうか。私もいつかは、自分にしか作れない形を作れたら面白いなって。とても先の話だと思うけど。出来ないこともないのかなって。だからこそ今、色々なジャンルの作家様の作品を見たいと思うのかもしれないですね。
――これから自分のオリジナルの作品を作るための下地作りってことですね。
着想を得るために必要なことですよね。着想があれば、これをどういう風にして加工すれば、というのはそれまでの技術力である程度賄えると思うんですよね。ただ、どういうテーマでどういう形のものを作りたいのか、と言うのは未知の世界なんです。後は経験も足りていないし。そこまで何かを考えたこともない。
ただ、今もこれからも、自分の製作活動よりも家族優先で生きていきたいと思っています。もう少し子育てが落ち着いたら、集中して製作のことを考える時間があると思うので、そういう時がきたら作ってみたいですね。
ART・PORTE企画展のテーマが「火」で、私も出展するんですけど、次のテーマが「幻獣」で。このテーマだと今の私には手が出せない。
――幻獣だとオリジナル作品になりますし、想像力が必要になってきますよね。
そうなんですよ。早速、『水木しげるの世界幻獣事典』とか読んでみたりして。見ていると、やはり面白そうなんですけどね。少しずつ、自分の中では「限界」と感じていたものが、溶けて何か見えてくるような感じがしていて。そう思わせてくれたのも、やはり鹿児島の作家様のお陰なんですよね。

――作っているものや参加されている催しが良い具合に繋がって、ご自身へ良い影響が出ているんだなぁというのを感じます。
本当、そうですよね。
あとは、自分自身が挫折したのも、社会人になるまで具体的な夢がなかったことが大きかったので、子どもにはちゃんと夢とか目標をもって学校を選んで欲しいですね。
――なんとなく進路を決めるのではなく、具体的な目標をもって選んで欲しい。
例えその夢がかなわなくても、生きる上での目標は持っていて欲しいし、叶えるためにどうすればいいのかを自分で考えてほしいですね。
そしたら挫折したときも、「あの時自分で決めたことだから」って後悔しないと思うんですよね。
――成績や自分の手に届く範囲で選ぶと、どうしても後悔が残りそうですもんね。
文系・理系を選ぶだけで人生変わりますもんね。
――それは、本当にそうですよね。
自分がいつどうなるかは分からないので、やりたいことは今やった方が良い。私は「機会があったら会いましょうね」とか言われるとすぐ日程を組んでしまうタイプなんですね。そうなると、それについてこれない人もやっぱりいるんですよね。社交辞令だよ、見たいな(笑)(今はコロナ禍なので基本的にステイホームですが)
――どちらの気持ちも分かります(笑)
私は一日でも早く実行したいタイプなんですよね。特に今、40代になって、病気とかになったらいやりたいこともできなくなってしまうし。出来るうちに出来ることをやらないと。私の模型仲間さんが先日飛行機を購入されたんです。最初は模型かなと思ったんですけど、プライベートジェット機を購入されていたんです(笑)
(ちゃんびい)すごい、鹿児島で(笑)
その人は特例だと思いますけど。それでもやりたいことを自分でやれていて凄いと思います。
――まさに「私たちはどう生きるのか」の問題ですね。
私は「やりたいことはすぐにやりましょう」という感じです。
――恰好いいですね。インタビューを通して、エネルギーを貰った一日でした。MOCO’S ROOMさん、改めて本日はありがとうございました!
編集後記
モコさんの作業場には、制作に必要な道具や過去に作られた作品が数多くありました。インタビューの中でも触れていますが、ジオラマやドールハウス、ミニチュア作家の肩書を持つ人を私は知りません。ひとつの作品を作るためにどういった技術・技法が必要なのか、刺激的な話をたくさん聞かせていただきました。
完成された作品はもちろん、作業場それ自体や制作途中の作品を見ているだけでも楽しいものでした。細部までつくりこまれた作品のひとつひとつ、そこに費やされた時間や熱量を思うと、同じく創作をする人間として敬意の念を抱かずにはいられません。
過去の展示の中で仙厳園のジオラマを拝見したことがありましたが、“なぜ、鹿児島に関する作品を作っているのか”その答えを聞き、今この記事の中で書くことができて良かったなと思っています。
MOCO’S ROOMさん、改めてインタビューありがとうございました。(エヌ)
『火の精のリストランテ』楽しく拝読させていただきました!
鹿児島でミニチュアの制作をされている皆様、ぜひともMOCO’S ROOMさんへご連絡を!!
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